はじめに
この記事の続きです。今回は入力バッファ部を見ていきます。
前置きとして、筆者は電子工学の専門ではなく、理解を深めるための勉強の一環として解析を行っています。そのため、内容に誤りが含まれる可能性があることをあらかじめご了承ください。
あくまで備忘録的な記事としてご覧いただければ幸いです。
回路解析
入力バッファ部(Input Buffer)
入力バッファ部は、トランジスタを用いたコレクタ接地回路を用いて、インピーダンスの変換を行う部分です。
部品説明
SJ1
インプット用に6.3mmのステレオジャックを使用します。
C3(0.022uF)
ギターからの信号に含まれる直流成分を除去します(カップリング)。
R4(1KΩ)
トランジスタを予期しない過大電流から保護します。
R5(510KΩ)
R6と合わせて、トランジスタに流れる電流を調整します。
回路の入力インピーダンスに大きく影響する抵抗です。
R6(10KΩ)
R5と合わせて、トランジスタに流れる電流を調整します。
C4(1uF)
信号からバイアス電圧を除去します(カップリング)。
コレクタ接地回路
入力バッファ部(および出力バッファ部)は、インピーダンスの変換を目的とした増幅回路からなっています。こうした増幅回路のことを緩衝増幅回路またはバッファ回路と呼びます。
具体的には、トランジスタを用いた増幅回路の一種である、コレクタ接地回路を使用しています。
出力電圧(エミッタ電圧)が入力電圧に追従(フォロー)することから、エミッタフォロワ回路と呼ばれることもあります。
この回路を入力部に置くことで、回路の特徴の一つである高入力インピーダンス(いわゆる”ハイ受け”)をエフェクターに適用することができます。また、低出力インピーダンスのため、次段(クリッピング部)に進む際の信号の劣化も抑えられます。
ここから、実際に入力バッファ部の入力インピーダンスを求めていきます。
手順としては、直流成分のみを考慮した直流等価回路から直流ベース電流の大きさを求めた後、交流成分のみを考慮した交流等価回路と直流ベース電流を用いて、入力インピーダンスを算出します。
直流等価回路
直流等価回路は、交流電源(インプット)を短絡、各コンデンサを開放とみなすことで作ることができます。
次の回路図は、電源部の分圧回路および入力バッファ部のコレクタ接地回路の直流等価回路です。
各部品は理想的なものであるという前提で、各所の電圧および電流を算出します。
なお、トランジスタの直流増幅率βは300とします。
まず、分圧回路で説明したように、9Vの電源をR1とR2が1:1に分圧するため、VR1とVR2はともに4.5Vとなります。(実際は、R5のほうにベース電流IBが流れるため、VR2が僅かに低くなります。)
また、図から、次の等式が成り立つことが分かります。
VR2 = VR5 + VBE + VR6 … (1)
VBEはトランジスタのベース・エミッタ間の直流電圧を表しており、一般的に0.6V~0.7Vで近似することができます。
ここではVBE = 0.65Vとします。
VR5,VR6について、それぞれ直流ベース電流IB,直流エミッタ電流IEが流れるので、以下の式が成り立ちます。
VR5 = IB × R5 … (2)
VR6 = IE × R6 … (3)
また、トランジスタを用いた増幅回路におけるベース電流とエミッタ電流の関係を表す式である
IE = IB × (1 + β) … (4)
を式(3)に代入すると、次のように、VR6をVR5と同様にIB × 抵抗値という形式で表すことができます。
VR6 = IB × (1 + β) × R6 … (5)
式(2),(5)をもとに、IBが流れる抵抗R5,R6が直列に接続されていると考えると、VR2 – VBE = 3.85Vを2つの抵抗が分圧していると見ることができます。よって、VR5,VR6は以下のように求められます。
VR5 = R5 / { R5 + (1 + β) × R6 } × 3.85V = 510KΩ / ( 510KΩ + 3010KΩ ) × 3.85V ≒ 0.56V … (6)
VR6 ≒ 3.85V – 0.56V = 3.29V … (7)
この結果から、直流エミッタ電流IEおよび直流ベース電流IB,直流コレクタ電流ICも求まります。
IE = VR6 / R6 = 3.29V / 10KΩ = 329μA … (8)
IB = 1 / (1 + β) × IE ≒ 1.09μA … (9)
IC = β / (1 + β) × IE ≒ 327.91μA … (10)
シミュレータ(LTspice)上で計測してみると、各数値は以下の通りになりました。
それぞれ、計算結果と近い値が確認できました。
交流等価回路
交流等価回路は、直流電源と各コンデンサを短絡とみなすことで作ることができます。
また、今回はトランジスタをHybrid Piモデルという小信号解析用の回路モデルに置き換えて計算を行います。詳細はWikipediaをご参照ください。
入力バッファ部の交流等価回路は次の図のようになります。
Hybrid Piモデルは抵抗Rπと電流源からなります。
Rπを用いて入力抵抗およびベース・エミッタ間の電圧降下を、電流源を用いてコレクタ電流を再現しています。
コレクタ電流の大きさはβ × IBで算出できます。
この回路における入力インピーダンスZinは、次の式で求められます。
Zin = R4 + [ R5 || { Rπ + (1 + β) × R6 } ] … (11)
式中の||は並列抵抗値を表します。
R6の抵抗値については、直流等価回路の式(6)と同じ考え方を適用しています。
Rπの抵抗値は、次の式で求めることができます。
Rπ = VT / IB … (12)
VTは熱電圧と呼ばれ、室温では25mV~26mV程度になります(今回は25mVとして計算します)。
IBは先ほど求めた直流ベース電流です。
式(12)を計算すると、Rπは約22.94KΩとなります。
よって、式(11)よりZinは約438KΩと求まります。
また、出力インピーダンスZoutは、次の式で求められます(式の導出は省略します)。
Zout = R6 || ( Rπ / β ) … (13)
これを計算すると、Zoutは約76Ωと算出されます。
終わりに
今回は以上となります。次回はクリッピング部の解析を行う予定です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
続き:準備中
記事を書くにあたり、入念に調査を行っておりますが、もし間違いなどありましたら、お問い合わせフォームからご連絡を頂けますと幸いです。
参考
- 林 幸宏「回路図で音を読み解く! ギター・エフェクターとアンプの秘密がわかる本」(リットーミュージック)
- Tube Screamer Circuit Analysis | ElectroSmash (2025/01/12閲覧)
- Hybrid-pi model | Citizendium (2025/02/10閲覧)